事件番号:JP2022-0009 裁 定 申立人: (氏名/名称)ミデア グループ カンパニー リミテッド (住所)中華人民共和国 グアンドン,フォシャン,ジュンデ,ベイジアオ, ミデア アベニュー 6,ミデア ヘッドクォーター ビルディング B26-28F 代理人:弁理士 加藤 勉、弁理士 萼 経夫、弁理士 今井 雅夫 登録者: (氏名/名称)イエ リー (Ye Li) (住所)中華人民共和国 上海市, 南京西 ロード2100(Nanjingxi Rd. 2100, Shanghai, China 郵便番号200000) 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針(以下「処 理方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続規則」と いう。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補 則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとお り裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「MIDEA.JP」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「MIDEA.JP」である(以下、「本件ドメイン名」という。)。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 (1) 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標と同一ま たは混同を引き起こすほど類似していること。 申立人は、以下の登録商標(以下、この3つの登録商標を併せて「本件登録 商標」という。)の商標権者である。 商標:Midea(ただし語頭Mはデザイン化されている) 登録番号:登録第4448436号 指定商品・役務:第9類「配電用又は制御用の機械器具」など 登録日:2001年1月26日 商標:Midea(ただし語頭Mはデザイン化されている) 登録番号:登録4518242号 指定商品・役務:第11類「暖炉、その他の火鉢類」など 登録日:2001年11月2日 商標:Midea(ただし語頭Mはデザイン化されている) 登録番号:登録4571714号 指定商品・役務:第7類「業務用食器洗浄機、業務用電気掃除機、業務用電気 式ワックス磨き機、業務用電気洗濯機、家庭用食器洗浄機、家庭用電気掃除機」 など 登録日:2002年5月24日 本件ドメイン名の要部は、「MIDEA」の部分である。申立人の登録商標「Midea」 は語頭の大文字Mに続く小文字ideaから構成された造語であって特別な観念は 生ぜず、「ミデア」または「ミディア」の称呼を生じる。 以上の通り、両者は欧文字の綴りと称呼が同一であるから、本件ドメイン名 は、申立人の本件登録商標と同一または類似の標章、または混同を引き起こす ほどに類似する標章であると言える。 (2) 登録者が、本件ドメイン名に関係する権利または正当な権利を有していないこ と 登録者については上海市に居住した個人であることがわかるだけで、日本 (および中国)において、どのような経済的活用をしているか不明であり、本 件ドメイン名またはこれに対応する名称で登録者が一般に認識されていたこと、 またはそれを使用した形跡も不明である。 これに対し、申立人は、ミデア グループ カンパニー リミテッドである が、その英語表示はMidea Group Co., Ltd.であり、申立人は本件登録商標を使 用して白物家電メーカー「美的集団(Midea Group/メディアグループ)または 「美的/Midea/ミデア」の名称で日本を含む世界で生活家電製品を製造販売し、 「美的/Midea/ミデア」の略称で広く認識されている。 申立人は、1968年創業の中国を代表する大手グローバル総合家電メーカ ーである。その主要ブランドは「Midea」で、50か国以上でブランド展開し、 2014年には世界中で230億ドルを売上げ、2016年時点でハイアール に次いで世界第2位になった。日本市場については、2001年に日本に完全 子会社「日本美的株式会社」を設立し、2015年4月13日に日本市場にて 高級IH炊飯器を販売することをニュースリリースし、この炊飯器の販売目標 台数を2015年中に約10万台とした。2016年6月30日には東芝の白 物家電部門を537億円で買収し、これを2年で黒字化したほか、三洋電機と も合弁を組んだ経験を有する。 以上のことから、申立人の商号及び略称でもある本件登録商標「Midea」は世 界的にまた日本で周知著名である。 申立人の本件登録商標でかつ英字商号・略称である「Midea」は日本や世界に おいて広く知られているところ、本件ドメイン名の登録は本件商標登録の登録 約15年後であり、登録者には本件ドメイン名の使用の実績がない。 したがって、登録者には本件ドメイン名について権利または正当な利益がない。 (3) 登録者の本件度面命が、不正の目的で登録または使用されていること 登録者は、ドメイン名登録数世界一の会社であるが、ドメイン名の認証局事 業も行っており、世界最大の販売数を誇る米国スコッツデールに本社を置く、 ドメインレジストラ・レンタルサーバサービスを行う会社である「GoDaddy」 を通じて本件ドメイン名を競売に付した。 したがって、登録者は本件ドメイン名を売却目的で登録しており、不正の目 的による登録は明らかである。 よって、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。 b 登録者 登録者によって答弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 手続規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原 則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・書類及び審問の 結果に基づき、処理方針、本規則及び適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理 に従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図し ている。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していないこと (3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること (1)同一または混同を引き起こすほどの類似性 本件ドメイン名のトップレベルドメイン「.JP」は国別コードを表す部分に過ぎないか ら、本件ドメイン名が商標や役務の出所表示として機能を果たす要部は、第2レベルドメ インである「MIDEA」であることは明白である。 申立人は、甲第2号証から第4号証の2を提出し、本件登録商標の商標権者であると主 張しているところ、これらの証拠はいずれも特許庁において、申立人を商標権者とする登 録商標が存在することを示すものであるから、申立人の主張は認められる。 そこで本件ドメイン名の第2レベルドメイン「MIDEA」と、本件登録商標「Midea」を対 比する。 申立人は、本件登録商標「Midea」は造語であって特別な観念は生じず、「ミデア」また は「ミディア」の称呼を生ずると主張する。確かに、第2レベルドメイン「MIDEA」と申 立人の本件登録商標「Midea」は、語頭の大文字Mとこれに続く小文字ideaから構成され、 語頭のMはデザイン化されているものの、Mの字を二つの半円で飾るデザインであってM の字であることがその外観から明白であるから、その差異は、語頭のMのデザイン化の有 無に過ぎず、構成される欧文字は同一である。構成する欧文字が同一であるから、観念が 生ずるとしても観念に差は生じず、称呼についても差がなく、そうすると、両者は同一な いし実質的に同一であると認められる。 したがって、本件ドメイン名の要部「MIDEA」と、申立人の本件登録商標「Midea」」は、 実質的に同一ないし混同を引き起こすほどに類似する。 (2)権利または正当な利益 本件ドメイン名は2015年12月9日に登録されたところ、登録者についてはYe Li という中国の上海市に住所を有する個人であることがわかるだけで、どのような経済活動 をしているか不明であり、本件ドメイン名またはこれに対応する名称で登録者が一般に認 識されていたことも、それを使用した形跡も不明であると、申立人は主張する。 確かに、登録者が答弁書を提出せず、かつ証拠も提出していない本件にあっては、登録 者が本件ドメイン名に対応する名称を使用していた事実、その準備をしていた事実、登録 者が本件ドメイン名の名称で一般に認識されていた事実のいずれについても、認められな いと言わざるを得ない。 また、申立人は登録者に本件ドメイン名の登録を許諾したことはないと主張していると ころ、これと矛盾する事情は認められないから、申立人は登録者に本件ドメイン名の登録 を許諾していないものと認められる。 以上のことから、処理方針第4条c項各号所定の事実はいずれも認められず、登録者は 本件ドメイン名に関して何らの権利または正当な利益を有するものでないと言うほかない。 (3)不正の目的での登録または使用 標題の点について、登録者は答弁書を提出せず、何らの反論もしていない。そこで、申 立人の主張が処理方針第4条a項(iii)号に該当するか否かに関し、申立人主張について、 以下の通り事実を認定し、判断する。 ① 登録者が本件ドメイン名を不当に高価な金額で売却する目的で登録したこと 申立人は、処理方針第4条a項(iii)号にいう「不正の目的での登録または使用」に 関して、登録者が不正の目的で本件ドメイン名を登録したと主張し、その証拠として登録 者が本件ドメイン名を競売に付した事実を主張する。 即ち、申立人は、登録者が「GoDaddy」という、米国スコッツデールに本社を置く、ド メインレジストラ・レンタルサーバサービスを行う会社の販売用リストに本件ドメイン名 を$29,999という金額で競売に付したと主張するところ、甲第9号証によれば、 「GoDaddy」というウエブサイトに、日時は2021年12月8日以前であること以外不 明であるものの、「Shopping Cart Review」記載の下に「midea.jp」が「$29,999」とい う金額と並んで記載されている。これは「midea.jp」というドメイン名が、29,999米ド ル(2021年12月時点の東京インターバンク月次為替相場最高値1米ドル115.2円を 参考に1米ドル115円で計算すると約345万円に相当する。)で「GoDaddy」というウエブ サイト上のショッピングカートに入れられていたことを示すから、出品者が本件ドメイン 名を本件ドメイン名登録にかかる費用をはるかに上回る金額で売却しようとした事実が認 められる。 したがって、登録者が、取得に要する金額をはるかに超える高額で売却することを目的 として本件ドメイン名を登録したものと認められ、これは処理方針第4条b項(i)号に該 当する。 ② 申立人は周知著名な中国の大手家電メーカーであり、登録者はこの事実を認識して いたまたは認識し得たこと ところで、申立人はミデア グループ カンパニー リミテッドであるが、法人証明書 によればその英字商号は「MIDEA GROUP CO., LTD.」であり、その証拠によれば、申立人 は自ら「Midea Group」または「Midea」と略称し、その主要ブランドは「Midea」で(甲 5~甲8)、50か国以上でブランド展開している(甲8)から、中国大手メーカー 「Midea」として知られている。 その売上規模は、2014年には世界中で230億ドルの売上を記録(甲8)し、19 68年に創業して1993年に深圳で上場している(甲5)から、中国を代表する大手グ ローバル総合家電メーカーといえる。 日本市場については、2001年に日本に完全子会社「日本美的株式会社」を設立し (甲6)、2015年4月13日に日本市場にて高級IH炊飯器を販売することをニュー スリリースし(甲5、甲7)、この炊飯器の販売目標台数を2015年中に約10万台と している(甲5)ことから日本市場においても周知著名な中国家電メーカーといえる。 したがって、2015年12月の本件ドメイン名登録当時、申立人の商号及び略称であ りかつ本件登録商標である「Midea」は、中国を代表する大手グローバル総合家電メーカ ーとして周知著名であったと言え、当然登録者もこの事実を認識していたまたは認識し得 たものと考えられ、これと矛盾する事情も認められない。 以上のように、2015年12月9日の本件ドメイン名の登録当時、申立人の英字商号 かつ略称であり、その主力製品のブランドかつ本件登録商標の標章である「Midea」が中 国の大手家電メーカーの商号として、またその主力ブランド名として周知著名であったか ら、上海市に住所を有する個人たる登録者はこれを認識していたか、認識し得る状態にあ った。また、申立人である中国の家電メーカーMideaが大々的に高機能IH炊飯器を販売 するなど日本市場への参入を本格化させた事実についても認識しまたは認識し得る状態で あった。登録者はその上で、「MIDEA」を日本のドメイン名として申立人に先んじて登録し ており、登録の目的は、その経済的価値を吊り上げて、登録に必要な費用をはるかに超え る高額で、申立人または第三者に売却することであったと考えざるを得ない。 したがって、登録者は、不当な利益を得る目的で本件ドメイン名を登録したものと認め られる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名「MIDEA.JP」 が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ドメイン名に関係する権利ま たは正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用され ているものと判断する。 よって、処理方針第4条iに従って、ドメイン名「MIDEA.JP」の登録を申立人に移転す るものとし、主文のとおり裁定する。 2022年8月22日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 生田 美弥子 別記 手続の経緯 (1)申立書の受領 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2022年6月28日 に申立書(添付する関係書類を含む。)を申立人から電子的送信により受領した。 (2)申立手数料の受領 センターは、2022年6月27日に申立人より申立手数料を受領した。 (3)ドメイン名及び登録者の確認 センターは、2022年6月28日にJPRSに登録情報を照会し、2022年6月 28日にJPRSから申立書に記載された登録者が対象ドメイン名の登録者であるこ とを確認する回答並びにJPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び 住所等を受領した。 (4)適式性 センターは、2022年6月30日に申立書が処理方針と手続規則に照らし適合し ていることを確認した。 (5)手続開始 センターは、2022年7月4日に申立人、JPNIC及びJPRSに対し電子的送 信により、手続開始を通知した。センターは、2022年7月4日に登録者に対し郵 送及び電子メールにより、開始通知を送付した。開始通知により、登録者に対し、手 続開始日(2022年7月4日)、答弁書提出期限(2022年8月2日)並びに書 面の受領及び提出のための手段について通知した。但し登録者宛電子メール送信分に ついては一部が送信不能であった。 (6)答弁書の提出 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2022年8月4日に 「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子的送信に より申立人及び登録者に送付した。 (7)パネルの指名及び裁定予定日の通知 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択し、センターは、20 22年8月9日に弁護士 生田美弥子を単独パネリストとして指名し、一件書類を電 子的送信によりパネルに送付した。センターは、2022年8月9日に申立人、登録 者、JPNIC及びJPRSに対し電子的送信により、指名したパネリスト及び裁定 予定日(2022年8月30日)を通知した。パネルは、2022年8月15日に公 正性・独立性・中立性に関する言明書をセンターに提出した。 (8)パネルによる審理・裁定 パネルは、2022年8月22日に審理を終了し、裁定を行った。